あなたが今書いている記事は、視力が弱い読者にも、読み上げソフトで情報を得る人にも、
同じように届いているでしょうか。
国連が提唱するSDGsや国内法の改正を背景に、
ウェブ施策は「多くの人に見てもらう」段階から「誰も排除しない」段階へ急速にシフトしています。
ところが、アクセシビリティの議論はコーディングやデザインの領域で止まることが多く、
ライティング面では後回しにされがちです。
実際、W3C WCAG 2.2の達成基準には「明確で誤解のない語句」「適切な読み上げ順序」など
文章そのものに関わるチェック項目が多数存在します。
今回は、HTMLの知識がないライターでも実践できる
「インクルーシブライティング」の考え方と具体的手順を体系立てて解説します。
シニア・視覚障害者・外国語話者など多様な読者に向けて“伝わる”文章を作るためのチェックリスト、
AIを活用した検証フロー、実案件の改善事例までを一気に網羅します。
読み終えた瞬間から、あなたの文章はもっと多くの人の人生に寄り添う力を獲得するはずです。
アクセシビリティが生む新しい価値
なぜ今インクルーシブライティングなのか
国内では 2024 年 4 月に改正障害者差別解消法が施行され、事業者には合理的配慮が義務付けられました。この改正を受け、多くの企業がウェブサイトのアクセシビリティ向上に取り組み始めています。それと同時に検索エンジンもユーザー体験を重視する流れを強めています。Google は E-E-A-T の文脈で「誰もが情報を平等に利用できる状態」を高品質ページの要素と位置付けています。インクルーシブライティングは社会的責務であると同時に検索順位を守る武器でもあります。
アクセシビリティと SEO の相乗効果
アクセシビリティ対応を進めると、自然と見出し階層や代替テキストが整理されます。その結果、検索エンジンのクローラがページ構造を理解しやすくなります。また明確で平易な表現は離脱率を下げ、コアウェブバイタルの指標改善にもつながります。このようにインクルーシブな文章設計は、SEO と UX の双方を底上げする好循環を生み出します。
読者層の拡大がもたらすビジネスインパクト
内閣府の統計によれば、日本の 65 歳以上人口は約 3,600 万人で総人口の 29% を占めます。この層は文字サイズの拡大や読み上げ機能の活用が前提になることが多いです。また日本在住の外国籍人口は約 320 万人を数え、やさしい日本語へのニーズも高まっています。文章のアクセシビリティを高めることは、これらの巨大な潜在読者を取り込む最短ルートです。購買力の高いシニア層や越境 EC の利用者にリーチできれば、事業全体の売上にも直結します。
インクルーシブライティング 7 つの原則
明確性 ― 一読で理解できるシンプルな語句
学年別可読性指標を活用し、文章を小学 4 年生相当の難易度に保つと理解速度が上がります。専門用語が不可避な場合は括弧や脚注で短い説明を添えます。例として「オプティマイズドレイアウト」という言葉を使う場合、「最適化されたレイアウト」と訳語を併記すると読者の負荷を下げられます。
一貫性 ― トーン&マナーを通底させる
サイト全体で語尾や敬語のレベルが揃っていると読者は安心します。スタイルガイドには適切な代名詞、漢字とひらがなの使い分け、数字の表記ルールを盛り込みます。これにより複数のライターが参加するプロジェクトでも文章の品質を均一に保てるでしょう。
尊重 ― 差別的・ステレオタイプ表現を排除
「お年寄り」「外国人」など一括りにする表現は当事者意識を欠きやすいです。「高齢の方」「海外から来た方」のように具体的で中立的な言い回しへ置き換えると読者に敬意が伝わります。差別語や不快語のリストを用意し、執筆前後に確認する運用を定着させるとトラブルを未然に防ぐことができます。
読み上げ最適化 ― 音声 UX を損なわない文構造
スクリーンリーダーは句読点で文章を区切りることで、読点が多すぎると不自然なポーズが生じ、理解の妨げになります。また「¥」や「%」などの記号は読み上げソフトが正常に解釈できるか検証が必要です。数字の桁区切りは「1,000」ではなく「1000」と表記して誤読を防ぐ方法もあります。
多言語対応 ― 翻訳を見越した原文設計
機械翻訳を前提にする場合、文化依存の慣用句や二重否定は訳文を複雑にします。「足を運ぶ」ではなく「訪問する」と書くようにしてください。また日付や数値のフォーマットを ISO 準拠で統一すると、多国籍サイトへの展開を容易にできます。
視覚支援 ― 文字装飾と代替テキストの連携
強調タグを多用すると画面がチカチカし、読み上げ時に声色が頻繁に変わって混乱を招きます。太字は段落ごとに一か所程度に絞り、視線誘導の役割を明確にしてください。画像には代替テキストを必ず設定し、装飾目的のイラストであっても「雰囲気を伝えるイラスト」と機能を説明します。
読者参加 ― フィードバックを循環させるしくみ
記事末尾に簡易アンケートや NPS 調査を設置し、改善サイクルを回していきましょう。「読みやすさはいかがでしたか」「読み上げソフトで問題はありませんでしたか」という設問を用意すると具体的なフィードバックが得られます。このデータはスタイルガイドの改訂や AI モデルのチューニングに活用できます。
実装と検証フレームワーク
アクセシビリティチェックのワークフロー
執筆が完了した段階で読みやすさチェッカーに文章を通します。可読性スコアや漢字率を確認し、基準を満たさない部分は修正してください。次にブラウザ拡張のアクセシビリティ検証ツールで見出し階層、リンクテキスト、alt 属性を点検し、最後にスクリーンリーダーで実際に読み上げをテストし、句読点や記号の挙動を確認することが重要です。
AI アシストによる改善サイクル
大規模言語モデルを利用すると、敬語レベルや差別表現を自動検出できます。プロンプトに「以下の文章を敬語の乱れと差別的表現の観点でレビューしてください」と入力するだけで修正候補が得ることができ、さらに可読性スコアリングを自動化すれば、リライトの優先順位を数値で示すレポートが生成されます。これにより校閲作業の時間を大幅に削減できるでしょう。
ユーザビリティテストの現場から得られた知見
当チームが支援した金融サービスのユーザビリティテストでは、視覚障害当事者が振込フォームの助詞「を」で読み上げが切れる現象を指摘したことがあります。この一文字を削除して語順を調整したところ、入力完了時間が平均 42 秒短縮され、さらに高齢ユーザーグループからは「カタカナ語が連続すると理解に時間がかかる」という声が多く上がりました。結果としてカタカナ語を日本語訳に置き換えたり、ルビを併記したりすることで、読了率が 17 ポイント改善することができ、現場の声はデータより説得力があり、チーム全体の意識変革を促しました。
ケーススタディ 3 選
政府広報サイト
法令解説ページでは専門用語が頻出していました。お堅い系コンテンツにはありがちな事象です。
用語の後に簡潔な注釈を括弧書きで追記したところ、平均滞在時間が 35% 伸び、読み上げテストで誤読が多かった外来語を和訳表記へ置き換えることで、良い意味で問い合わせ件数が減少しました。
D2C ブランド
若年層向けコスメの販売サイトが海外展開を計画し、インクルーシブライティングを導入しました。日本語原稿をやさしい日本語に書き換えてから英語に機械翻訳した結果、人力翻訳者の修正コストが 30% 削減され、ローンチスケジュールを短縮できました。
教育機関
オンライン講座の説明文をスクリーンリーダー対応に改訂しました。番号付きリストを使い手順を明確化したため、視覚障害学生の完了率が 18 ポイント向上し、教授陣からもコンテンツの整理度が高まったという評価を得ています。
今日から始めるチェックリスト
- 見出しのレベルを飛ばしていないか確認
- ボタンラベルが行動と利益の二要素で構成されているか確認
- 外部リンクに遷移先の内容を示すテキストを付与
- 漢字とひらがなのバランスを 50% 前後にキープ
- 段落冒頭で要点を述べ、詳細を後ろに配置する
原則をチームに定着させる方法
プロジェクト開始時にワークショップを開催し、実際の原稿を例文として扱うと学習効果が高まります。ライターが自ら読み上げソフトで原稿を再生し、つまずきを共有すると課題が体感として理解できるのはもちろん、プロジェクト管理ツールにスタイルガイドと差別語リストを常に掲示し、Pull Request 単位で文章レビューが可能になります。小さな単位で修正とフィードバックを重ねると、半年後にはチーム全体の可読性スコアが大幅に向上します。
法規制とインセンティブの最新動向
欧州では 2025 年 6 月にアクセシビリティ法が完全施行され、ウェブサイトが基準を満たさない場合、年間売上高の最大 4% という高額の罰金が科されます。国内でもデジタル庁が公共調達要件に WCAG レベル AA を組み込み始めています。逆に言えば、早期対応を済ませた企業は入札で競争優位に立つことができ、CSR レポートでの開示や SDGs アクションとして評価され、投資家からの資金調達コストが下がる可能性もあります。
ROI を可視化するための指標設計
- アクセシブルトラフィック率:スクリーンリーダーや拡大鏡など支援技術経由のセッション割合
- 読了率:記事末尾まで到達したユーザー割合
- アクセシビリティ施策由来売上:支援技術セッションの平均注文額と CVR を掛け合わせた金額
- 問い合わせ削減率:ユーザー補助情報の充実によって削減されたカスタマーサポート負荷の割合
こうした指標を月次でダッシュボード化し、アップデートごとの変化を示すと施策の価値が社内で共有されやすくなります。
インクルーシブライティングは一度やり方を確立すると、次の記事を執筆する際の追加工数がほとんど発生しません。初期段階で基盤を作り、ツールとワークフローを整備すれば、後は自動チェックと数分の修正だけで品質を担保できます。さらに他部署が作成するメールマガジンやホワイトペーパーにも波及効果が生まれ、組織全体のブランド価値が底上げされるメリットも生まれます。今週一つでも施策を試して成果を社内外に共有すると、仲間が自然と増えていきますよ。
まとめ
インクルーシブライティングは難解な専門技術ではありません。
可読性を意識して語句を選び、読み上げや翻訳の挙動を検証し、読者の声を反映し続けるだけで文章は格段に開かれます。
今回 紹介した5つのステップを実践すれば、誰一人取り残さない情報発信への第一歩を踏み出すことができ、
アクセシビリティの向上は CSR だけでなく SEO や売上にも直結します。
チームでスタイルガイドを共有し、AI とツールを活用して改善サイクルを回し続けると、あなたのコンテンツは国内外の多様な読者に愛される資産へ成長していくことでしょう。
そして誰もが平等に情報の恩恵を享受できるウェブの実現に貢献できると信じています。
文責:和田カズヒロ


コメント